最高裁判所判決──2004年11月29日
第二小法廷 裁判長裁判官 津野修 裁判官 北川弘治 滝井繁男
言渡 平成16年11月29日
交付 平成16年11月29日
裁判所書記官
平成15年(オ)第1895号
判 決
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
上記当事者間の東京高等裁判所平成13年(ネ)第2631号アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求事件について、同裁判所が平成15年7月22日に言い渡した判決に対し、上告人らから上告があった。よって、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
1 上告代理人高木健一ほかの上告理由第1の2のうち憲法29条3項に基づく補償蒲求に係る部分について
(1)
軍人軍属関係の上告人らが被った損失は、第二次世界大戦及びその敗戦によって生じた戦争犠牲ないし戦争損害に属するものであって、これに対する補償は,憲
法の全く予想しないところというべきであり、このような戦争犠牲ないし戦争揖書に対しては、単に政策的見地からの配慮をするかどうかが考えられるにすぎな
いとするのが、当裁判所の判例の趣旨とするところである(最高裁昭和40年(オ)第417号同43年11月27日大法廷判決・民集22巻12号2808頁)。したがって、軍人軍属関係の上告人らの論旨は採用することができない(最高裁平成12年(行ツ)第106号同13年11月18日第二小法廷判決・裁判集民事203号479頁参照)。
(2)いわゆる軍隊慰安婦関係の上告人らが被った損失は、憲法の施行前の行為によって生じたものであるから、憲法29条3項が適用されないことは明らかである。したがって、軍隊慰安婦関係の上告人らの論旨は、その前提を欠き、採用することができない。
2 同第1の2のうち憲法の平等原則に基づく補償請求に係る部分について
財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和40年条約第27号)の締結後,旧日本軍の軍人軍属又はその遺族であったが日本国との平和条約により日本国籍を喪失した大韓民国に在住する韓国人に対して何らかの措置を講ずることなく戦傷病者戦没者遺族等援護法附則2項、恩給法9条1項3号の各規定を存置したことが憲法14条1項に違反するということができないことは、当裁判所の大法廷判決(最高裁昭和37年(オ)第1472号 同39年8月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁、最高裁昭和37年(あ)第927号同39年11月18日大法廷判決・刑集18巻9号579頁等)の趣旨に徹して明らかである(最高裁平成10年(行ツ)第313号同13年4月5日第一小法廷判決・裁判集民事202号1頁、前掲平成13年11月16日第二小法廷判決・最高裁平成12年(行ツ)第191号同14年7月18日第一小法廷判決・裁判集民事206号833頁参照)。したがって、論旨は採用することができない。
3 同第1の2のうち、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に射する法律(昭和40年法律第144号)の憲法17条、29条2項、3項違反をいう部分について
第二次世界大戦の敗戦に伴う国家間の財産処理といった事項は,本来憲法の予定しないところであり、そのための処理に関して損害が生じたとしても、その損害
に対する補償は、戦争損害と同様に憲法の予想しないものというべきであるとするのが、当裁判所の判例の趣旨とするところである(前掲昭和43年11月27日大法廷判決)。したがって、上記法律が憲法の上記各条項に違反するということはできず、論旨は採用することができない(最高裁平成12年(オ)第1434号平成13年11月22日第一小法廷判決・裁判集民事203号613頁参照)。
4 その余の上告理由について
その余の上告理由は、違憲及び理由の不備・食違いをいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、民訴法312条1項又は2項に規定する事由に該当しない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 津 野 修
裁判官 北 川 弘 治
裁判官 滝 井 繁 男